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アルミ鋳物・ダイカストに関する技術コラムです

DX推進記#1:DXは気づいたら実現しているもの

当社では、DXに向けた取り組みを段階的に進めてきて、現在ではある程度その実現に成功しつつあります。数回にわたり当社のDXの推進記を紹介いたします。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、しばしば大がかりで画期的な変革のように捉えられがちですが、実際には”気づいたら実現している”という性質を持っています。

確かに経営的には、IR情報や決算書へのインパクト、経費低減によるコスト削減が重要であり、そのために、多くの人は機械の自動化やAIの導入など、目に見える技術に目を向けがちです。

ただ、小さい改善を次々と進めることで、日々の業務改善や効率化が少しずつ積み重なり、改善が要望を呼び、データがつながり、気がつけば企業全体がデジタル化されている、という進め方もあると考えます。

当社も例外ではなく、当初、DXとして温室効果ガスの削減やデジタルツインなど高いビジョンを掲げていたものの、実際には何から始めたら良いかわからない状態で止まっていました。

製造現場では、日々の業務が優先され、DXのための時間やリソースを確保することが難しく、DXの話題が出ても、「現状を維持するだけで精一杯」という声が多く聞かれました。DXを進めるためのプロジェクトが動き出しても、その具体的な進め方や目標設定が曖昧なため、どうしても後回しにされることが多かったのです。

そのような中で、私たちが最初に取り組んだのは、EXCELの案件台帳のWEB化でした。

当時の案件台帳は、各部署で案件ごとに管理され、受注内容や進捗、担当者の情報などが入力されていました。新しい案件番号を取得する際には、担当者がファイルに手書きで内容を記入し、それを別の専任の担当者がEXCELに転記するという手間のかかるプロセスを取っていました。また、部署ごとに分散して管理されているため、最新の情報を確認するのに時間がかかり、さらに手入力のため、誤入力や重複入力が発生することもありました。

案件番号は当社にとって、すべての業務のキーになるに重要な情報であるので、最初にこの情報を改善することが最優先と考えました。私たちは、このEXCELベースの案件台帳をクラウド化し、いつでもどこからでもアクセスできる環境を整えることにしました。

このような既製品のクラウドのシステムは数多ありますが、当社独自のプロセスやニーズに対応することが難しく、現場にフィットしない、また今後の拡張にも難があるという課題がありました。そのため、既製品を使うのではなく、自社でシステムを自作することにしました。社内の現場と開発者とが密に連携し、試作を繰り返し、当社の業務フローに最適化されたシステムをゼロから構築しました。

さらに、特に案件のような重要な情報は、外部への漏洩が許されません。また新たなアカウントを各人が管理するのも現場の負担になります。そのため、新しいシステムは、社内のユーザー認証基盤と連携し、全社員が一元管理された認証を通じてシステムにアクセスできるようにしました。この仕組みにより、利便性を保ちながらも、強固なセキュリティを維持することができました。

これにより、まず、案件ごとの進捗管理が迅速かつ簡単になり、部署間の情報共有も格段にスムーズになりました。これにより、ミスや二重管理が減り、対応スピードが大幅に向上したのです。また、リアルタイムで更新されるデータにより、経営層も常に最新の情報をもとに判断を下せるようになりました。

EXCEL台帳をWEB化するという、改善としてはありふれた、DXと言うには小さな取り組みでしたが、この一歩が「デジタル変革」を明確に示すきっかけとなりました。この取り組みを機に、他の業務のデジタル化も次々と進められ、デジタル化が徐々に企業文化を変えていったのです。

 

人間が変われるのは、『隣の奇跡』を見たとき

 

この言葉は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する過程で、私たちが何度も実感した真実です。いくら大きな目標を掲げ、最新技術を導入しようとしても、人はなかなか変わりません。むしろ、慣れ親しんだ方法に固執し、現状維持を望むのが自然なことです。しかし、隣の奇跡、つまり身近な成功を目の当たりにしたとき、人々は自分たちも変われるのだと確信し、変革に向けて一歩を踏み出すのです。

DXの推進において、しばしば大規模なプロジェクトや長期的な目標が掲げられます。デジタルツインやIoT、AIなど、未来を感じさせる技術の導入が語られ、壮大なビジョンが描かれます。しかし、そうしたビジョンは現場にとってはあまりに遠い存在です。目の前の仕事に追われる日々の中で、どうして自分たちがその未来に向けて動き出す必要があるのか、具体的な理由が見えづらいのです。

しかし、変化は大きなものではなく、身近な成功から始まります。たとえば、ある部署で導入した小さなツールが大きな成果を上げたとき、その隣にいる人たちはこう考えます。「自分たちのやり方も変えられるかもしれない」と。これは単なる理論ではなく、実際の現場で私たちが経験してきたことです。DXの成功例は、必ずしも最先端の技術を使った大規模な改革ではなく、小さな一歩が大きな波紋を広げることが多いのです。

「隣の奇跡」を目の当たりにすることが重要なのは、それが自分事化につながるからです。DXが掲げる未来のビジョンがいくら魅力的であっても、それが現場の一人ひとりにとって「自分の仕事をどう変えるのか」が見えなければ、モチベーションにはつながりません。しかし、同じ業務をしていた隣のチームが成功している姿を目にしたとき、その変革が急に自分事に感じられます。

「うちのやり方も変えられるのではないか」「自分の仕事ももっと楽になるかもしれない」。こうした思いが生まれたとき、人は自然に変わり始めます。それは、無理に強制された変化ではなく、自発的な変化です。この自発的な動きこそが、DXを推進する上で最も重要な要素です。人は他人から命令された変革には抵抗を示しますが、隣の成功例を見て自分から動き始めた変革には、積極的に関わろうとします。

 

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