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アルミ鋳物・ダイカストに関する技術コラムです

2025.05.28

日本のアルミ鋳造業界を取り巻く課題 #1

鋳造業界に立ちはだかる環境規制

環境規制の強化への対応と持続可能な製造プロセスの確立

環境規制の背景

 現在、日本の製造業全体が強化される環境規制やカーボンニュートラルへの対応を迫られています。特にアルミ鋳造業界はその影響を強く受けています。その要因として、鋳造は高温で金属を溶解する工程が不可欠であり、従ってエネルギー消費非常に大きいことが挙げられます。そのため、エネルギー多消費型の構造からの脱却が急務となっています。この課題を解決することにより、業界全体が環境負荷を低減し、持続可能な成長を実現していくことが期待されています。

環境対応技術の導入

 現在、多くの鋳造メーカーでは、環境対応技術の導入が進められています。例えば、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用が挙げられます。大企業では、エネルギー効率の高い設備投資が進んでおり、環境負荷の低減に向けた取り組みが積極的に行われています。また、中小企業でも、政府の補助金を活用して省エネ設備を導入し、エネルギー消費の削減を図る動きが見られます。ただし、中小企業におけるこのような動きは、まだまだ大企業ほどは進んでいないのが実情です。

工業炉の視点

 アルミを溶かす必要のある鋳造業界においては、溶解炉・保持炉などが欠かせない存在です。溶体化などの熱処理が必要な部品の多い自動車部品の生産工程においては熱処理炉も不可欠です。鋳造は生産において熱をコントロールすることが欠かせず、前述した通りエネルギー消費が非常に大きい工法です。その消費量は、鋳造工場における全エネルギー消費量の約80%を占めると言われています。

燃焼炉

 従来の燃焼炉の多くは天然ガスや重油を燃料とし、高温で金属を溶解するために大量のエネルギーを消費します。すなわちCO2排出量が多く、環境負荷が大きいという課題があります。
 その課題に対して、燃焼における省エネ化の取り組みが進められています。例えば、リジェネバーナを搭載した燃焼炉は、廃熱を回収して再利用することでエネルギー効率を向上させています。また、アンモニアや水素を燃料とする燃焼炉の開発も進められており、これによりさらなるCO2排出削減が期待されています。

電気炉

 一方、電気炉は電気を熱源とするため、燃焼炉に比べてCO2排出量が少なく(※)、エネルギー効率も高いです。(※再生可能エネルギーの比率が高い場合) また、エネルギーの投入量を精密に制御できるため、加熱効率が高く、安定した温度管理が可能です。

 なお、アンモニアや水素を燃料とするためには、技術課題や供給インフラの整備における課題が数多く残されており、それらに対する開発の途上です。一方で電気はすでに広く普及しており、現在でも導入可能な熱源です。

各メーカーの対応の視点

 多くの鋳造メーカーが環境規制に対応するための具体的な取り組みを進めています。例えば、ある鋳造メーカーでは6,500トンのギガキャスト用大型マシンを導入し、エネルギー効率の向上とCO2排出削減を目指しています。また、ある金型メーカーは金型の耐久性向上を目的とした表面処理技術を開発し、環境負荷の低減に貢献しています。

 さらに、あるダイカストマシンメーカーは大型ダイカストマシンの開発を進めており、大手自動車メーカーと連携してギガキャスト技術の普及を図っています。これにより、製造プロセス全体の効率化と環境負荷の低減が期待されています。

環境規制への対応の遅れ

 しかし、上記のような状況の中、依然として未解決の課題が残っています。特に、中小企業では資金力やユーティリティーの不足が課題となっており、対応を進めることが困難な状況です。同様の理由で、再生可能エネルギーの導入も進んでおらず、エネルギー構成の再エネ比率が低い状況です。さらに、人材不足等で日々の業務の中に余力がなくカーボンニュートラルへの対応に向けた具体的な計画を描くことも困難であり、環境規制への対応が遅れていることも競争力低下の一因となっています。

生き残るためには

 今後、鋳造業界に身を置くメーカーとして生き残り、日本の鋳造業界全体として持続可能な成長を実現するためには、以下の対応が必要です。

省エネ設備の導入

 エネルギー効率を向上させるために、省エネ設備の導入をさらに推進することが重要です。特に、従来のガス燃焼炉から電化や水素化などの燃料転換が求められます。電化により、エネルギー効率の向上と温室効果ガスの削減が期待されます。

再生可能エネルギーの活用

 再生可能エネルギーの活用を拡大し、エネルギー構成の再エネ比率を高めることが求められます。これにより、カーボンニュートラルへの移行が加速します。

政府の補助金や助成金の活用

 中小企業でも先行投資が可能となるよう、政府からの補助金や助成金を活用することが重要です。その中でも、中小企業が活用しやすいよう、申請手順や報告などが簡略化された補助金も出てきております。これらを活用することで資金的な負荷を減らすことが可能です。これにより、省エネ設備や再生可能エネルギーの導入が促進されると考えられます。

カーボンニュートラルへの具体的な計画の策定

 カーボンニュートラルへの具体的な計画を各社が策定し、実行に移すことで、環境規制への対応を迅速に進めることが重要です。これには、エネルギーの多様化も含まれます。例えば、水素化技術の導入検討や現在の消費エネルギー事情の把握、省エネ化の可能な項目のピックアップ等により、クリーンエネルギーの利用が進みます。

 これらの対応を講じることで、鋳造業界全体が環境負荷を低減し、持続可能な成長を実現することが期待されます。ただ、これらの対応によるランニングコスト上昇や補助金で補いきれない設備投資費の高価格化に関しては、経営判断が難しいのが実情です。だからこそ大企業から中小企業まで、業界全体が一丸となってこれらの課題に取り組むことが求められます。そうすることで、国際市場での競争力を強化し、鋳造に関わるメーカーとして生き残るうえで、持続可能な未来を築くことができるでしょう。当社も鋳造業界に身を置く一員として、環境負荷低減・持続可能な成長に寄与する技術開発・製品提案を進めてまいります。


 次回は、第2話『国内市場の縮小による需要減少と売上低下』に進みます。自動車産業を中心とした需要構造の変化や、縮小市場の中で新たな価値を創出するための再構築戦略について掘り下げます。


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