日本のアルミ鋳造業界を取り巻く課題 #2

国内市場の縮小による需要減少と売上低下
日本のアルミ鋳造業界は、長年にわたり自動車産業を中心とした安定した需要に支えられてきました。しかし、近年の市場環境は大きく変化しています。国内市場の縮小、EVシフトによる部品構成の変化、さらにはグローバル競争の激化により、従来のビジネスモデルは再構築を迫られています。
自動車産業の構造変化がもたらす影響
日本のアルミ鋳造業界にとって、自動車産業は最大の需要先です。ところが、EV(電気自動車)への急速な移行は、鋳造部品の需要構造そのものを変えつつあります。内燃機関に必要だったエンジン部品やトランスミッション部品は、EVでは不要となり、代わりにバッテリーケースや冷却系部品など、異なるニーズが生まれています。
この変化は、単なる製品の置き換えではなく、製造プロセスや素材選定、設計思想にまで影響を及ぼします。従来の強みが通用しなくなる可能性がある中で、鋳造メーカーは新たな価値創出に向けた再構築を迫られています。
国内市場の縮小と売上低下の現実
少子高齢化による人口減少、若年層の車離れ、都市部でのカーシェアリングの普及など、国内自動車市場は縮小傾向にあります。これに伴い、アルミ鋳造部品の需要も減少し、売上の低下が顕著になっています。
さらに、海外からの安価な鋳造品の流入も、価格競争力を低下させる要因となっています。特に中国や東南アジアのメーカーは、最新鋭の設備と低コスト体制を武器に、グローバル市場での存在感を高めています。
他業種に学ぶ再構築戦略
市場縮小や需要構造の変化に直面しているのは、鋳造業界だけではありません。他業種では、既存の技術や資源を再定義し、新たな価値を創出することで生き残りを図っています。
印刷業界:紙からデジタルへ、そして融合へ
例えば、ある印刷会社A社は、印刷業の枠を超え、パッケージデザインや販促企画、Webマーケティング支援までを一貫して提供する「総合ブランディング支援企業」へと転換。印刷という“手段”から、顧客の売上向上という“目的”に寄り添うビジネスモデルへと進化しました。
また、別の印刷会社B社は、卒業アルバム制作のデジタル化を推進。AIによるレイアウト自動化や自動製本工場の導入により、短納期・高品質を実現し、印刷業の新たな可能性を切り開いています。
繊維業界:素材と工程の再定義による価値創出
繊維業界でも、ある企業C社が、導電糸の製造技術を開発し、スマートテキスタイル(※)分野への展開を進めています。医療・介護・スポーツ分野での応用が期待されるこの技術は、繊維業界の枠を超えた新たな市場を切り拓いています。(※スマートテキスタイル:電子機能を持つ繊維。体温や動きを感知するなど、医療やスポーツ分野で活用される。)
また、別の企業D社は、ハンダ付け可能な銅めっき糸を開発。繊維と電子部品の接続を可能にし、ウェアラブルデバイスの量産化に貢献しています。
さらに、廃棄繊維を原料とした再生ボードを開発した企業E社では、汚染繊維も再資源化できる技術を活用し、完全循環型のサーキュラーインフラ(※)を構築。環境配慮型の製品として、国内外での展開を進めています。(※サーキュラーインフラ:廃棄物を再利用し、資源を循環させる仕組み。持続可能な社会づくりに貢献する。)
これらの事例に共通するのは、「技術の再定義」と「顧客価値の再発見」です。アルミ鋳造業界も、従来型の部品供給から脱却し、機能性・軽量化・環境対応といった新たな価値軸での提案が求められています。
新たな価値創出に向けた具体的な取り組み
他業種の事例を踏まえ、アルミ鋳造業界でも以下のような具体的な戦略が有効です。
1. 「鋳造×設計支援」への進化
CAEや流動解析を活用し、設計段階から顧客と共創する体制を構築。EV向け部品の軽量化や熱伝導性の最適化など、機能提案型の鋳造ソリューションを提供することで、製造に特化した事業者から「開発パートナー」へとポジションを転換できます。
2. 「鋳造×環境価値」の訴求
再生アルミの活用や鋳造工程の脱炭素化(電気炉化・省エネ化)を進め、カーボンフットプリントの可視化やLCA(ライフサイクルアセスメント)対応を強みに。環境配慮型の部品供給は、グローバルOEMからの評価にも直結します。
3. 「鋳造×デジタル教育」
熟練工の技術を動画・センサー・AIで可視化し、若手教育に活用。IoTで収集した鋳造条件と製品品質の関係をAIが解析し、最適条件を自動提示するシステムを導入することで、技能の属人化を解消し、品質の安定化と継承を両立できます。
4. 「鋳造×海外展開」
国内需要の減少を補うため、ASEANやインド市場への進出を検討。現地のEV・インフラ需要に対応した製品開発や、日系企業との連携による現地生産体制の構築が有効です。
未来への視点
市場の縮小は、業界にとって厳しい現実であると同時に、変革のチャンスでもあります。自動車産業の構造変化を的確に捉え、他業種の知見を取り入れながら、自社の強みを再定義することが求められています。
鋳造業界は、長年にわたり「ものづくり」の根幹を支えてきました。その技術力と現場力を活かし、新たな価値を創出することで、次の時代にも必要とされる存在であり続けることができるはずです。
次回は、第3話『労働力不足と熟練工の高齢化による技術継承の困難』に進みます。人材の流出と世代交代が進む中、鋳造現場の“技”をいかに未来へつなぐか――。現場力の維持と技術継承の課題に、業界はどう立ち向かうべきかを掘り下げていきます。
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