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アルミ鋳物・ダイカストに関する技術コラムです

2025.07.28

日本のアルミ鋳造業界を取り巻く課題 #3

技術継承

労働力不足と熟練工の高齢化による技術継承の困難

 日本のアルミ鋳造業界の現場には、経験豊富なベテランの方々がいて、日々の生産を力強くけん引しています。彼らは肩書きに頼ることなく、日々の作業の中で自然と周囲を導き、トラブル時には誰よりも早く動き、判断を下す――そんな存在です。気づけば、現場の空気や品質の安定は、彼らの技術と判断力に大きく支えられている。そう実感する場面が、どの工場にもあるのではないでしょうか。

 しかし今、その現場力の根幹を担ってきたベテラン層が、急速に引退期を迎えつつあります。少子高齢化による若手人材の不足、技能の属人化、教育体制の限界など、技術継承をめぐる課題は複雑に絡み合い、業界全体の持続可能性に影を落としています。

若手人材の不足と高齢化の進行

 日本全体で進む人口構造の変化は、鋳造業界にも深刻な影響を及ぼしています。製造業全般で若年層の就業者が減少しており、鋳造現場でも、ベテラン層の比率が年々高まり、高齢化が進んでいる実感を持つ現場は少なくありません。若手の採用が進まない背景には、労働環境の厳しさ、業界イメージ、待遇面の課題などが複合的に存在しています。

 一方で、現場のベテランの方々は、長年の経験をもとに品質を守り、工程を安定させ、後進の育成にも尽力しています。とはいえ、その技術や判断力は、マニュアルや図面には書かれていません。朝礼での一言、作業中のさりげない指示、トラブル時の即時対応――その一つひとつが、周囲の若手や中堅にとっては“学びの場”になっています。属人化されたノウハウは、言語化されないまま日々の業務の中に溶け込んでおり、継承の難しさは、技術そのものよりも“伝え方”にあると言えるでしょう。

技術継承の困難と属人化のリスク

 鋳造技術は、数値化しづらい“暗黙知”が多く含まれています。たとえば、鋳型への金属流入速度や鋳造欠陥の予兆を察知することなどは、熟練工が長年の経験で体得してきたものです。

 とはいえ、現場では「熟練工」という肩書きが前面に出ることは少なく、むしろベテランの職人が自然と現場を引っ張っているというのが実情です。よくよく考えてみれば、その人こそが熟練工であり、現場の技術と文化を体現している存在なのです。

 この属人化は、品質のばらつきや教育の非効率にもつながり、企業の競争力を低下させる要因となっています。今後、ベテランの引退が進む中で、こうした“現場力”をどう次世代に橋渡ししていくかが、業界全体の持続可能性を左右する重要なテーマとなります。

他業種に学ぶ技術継承の工夫

 技術継承の課題は、鋳造業界に限ったものではありません。他業種では、熟練技術のデジタル化や教育手法の革新により、継承の仕組みを再構築する動きが進んでいます。

繊維業界:マニュアル化にAIを活用

 ある縫製会社A社の工場では、熟練工の作業を高精度カメラで撮影し、AIが動作を解析。動画マニュアル化することで、若手教育の効率化と技術の標準化を実現しています。さらに、IoTを活用してミシンの稼働状況を管理し、作業の最適化と品質向上を両立しています。

建設業界:“勘”の可視化

 ある建設会社B社では、ベテラン職人の施工技術を3DスキャンとVRで記録し、新人研修に活用する取り組みが進んでいます。現場での“勘”を可視化することで、技術の継承と安全性の向上を図っています。

鋳造業界:技術継承と業務効率化の両立

 ある鋳造メーカーC社では、生産計画・品質管理・原価管理を一元化するダッシュボードを導入し、現場の判断力と対応力を強化。属人化された技能を数値化・共有化することで、技術継承と業務効率の両立を図っています。

鋳造業界における具体的な対応策

 鋳造業界では、技術継承の課題に対してさまざまな角度からのアプローチが求められています。以下に、現場力を維持・強化しながら次世代へと橋渡しするための、具体的かつ実践的な取り組みを紹介します。

1. DXによる現場力の再構築

 鋳造業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて、現場力の再構築が進んでいます。IoTやAIを活用して鋳造条件と品質の関係を可視化することで、熟練工の“勘”を数値化・標準化する取り組みが広がりつつあります。

 これにより、技術の継承が単なる引き継ぎにとどまらず、品質のばらつきを抑え、製品の安定性を高める仕組みとして機能します。若手でも熟練者に近い判断が可能となり、工程の再現性が向上します。

 さらに、生産・品質・原価などの情報を一元管理することで、現場の対応力と柔軟性が高まり、変化に強い体制づくりにもつながります。

2. 動画・VR教材による教育の革新

 現場作業を高解像度の動画で記録し、工程ごとに分解・解説することで、体系的かつ視覚的に理解しやすい教育コンテンツを構築できます。これにより、OJTだけでは伝えきれない細かな手順や注意点を、繰り返し学習できる環境が整います。

 さらに、VR(仮想現実)技術を活用すれば、実際の作業環境を仮想空間で再現し、危険を伴う作業や高温環境などを安全に体験できます。これにより、安全教育の質が向上し、実作業に入る前の不安やリスクを軽減することができます。教育の標準化と安全性の向上を両立する手法として、今後ますます重要性が高まる分野です。

3. 外部連携の活用

 外部の受託試験場を活用することで、製品や工程に対する客観的な評価や技術的な裏付けを得ることができます。社内では対応が難しい高度な検証や分析を外部に委託することで、品質管理の精度向上や若手教育への応用が可能になります。

 また、外部の技術者を招いて講義や技術指導を受けることで、社内では得がたい専門的な知見や新しい視点を取り入れることができます。理論と実践をつなぐ教育機会として、若手や中堅社員の技術理解を深める場となります。

 さらに、外部協力業者の作業者とともに現場作業を体験する「作業実習」の機会を設けることで、異なる工程や手法に触れ、現場力の底上げにもつながります。こうした外部との連携は、社内教育の補完だけでなく、技術継承の多様化にも寄与します。

技術は人から人へ、そして仕組みへ

 技術継承は、単に人材を補充するだけでは解決しません。熟練工の知見を“仕組み”として残すことで、組織としての技術力を維持・向上させることが可能になります。

 鋳造業界が次世代に向けて持続可能な体制を築くためには、教育・設備・文化の三位一体での改革が求められます。現場力を未来へつなぐための挑戦は、すでに始まっています。


 次回は、第4話『遅い技術革新のスピード・低下する国際的競争力』に進みます。変化のスピードが競争力を左右する時代に、なぜ日本の鋳造業界は“変われない”のか。技術革新の停滞と国際競争力の低下という静かな危機に焦点を当て、打開のヒントを探ります。


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