断熱材について:工業炉の省エネ向上のための基礎知識
このコラムでは、工業炉等に用いられている断熱材ついて、
基本的な知識から、日本高熱工業が自社設備で取り組んでいる内容まで簡単に解説します。
断熱材とは
断熱材は建築用や工業用など、様々な分野で使用されていて、熱の遮断や保温のために用いる、熱を伝えにくい材料の総称です。特に、加熱・溶解などの高温条件で使用される工業炉向けの断熱材は、断熱性と耐火性のどちらも必要となるため、下記のような工業生産材を指していうのが一般的ですが、定説ではありません。1)
- 熱伝導率が0.12W/(m・K)以下
- 800℃以上の温度で使用
断熱材の種類
建築用の断熱材は、材質などの違いで、大きく「繊維系断熱材」「発泡プラスチック系断熱材」「天然素材系断熱材」にの3種類に分類されますが、工業炉用の断熱材も材料、製法、特性などによって分類されます。表1に、断熱材の代表的な種類を示します。 2)
表1 断熱材の代表的な種類
種類 |
種類 |
定義・特徴 |
耐火断熱 れんが |
アルミナ質 粘土質 |
耐火れんがの一種で、多数の小気孔を分散・形成させることで、軽量で熱伝導率の低い耐火れんが。 JIS R2611では、かさ比重や熱伝導率などの特性で耐火断熱れんがを分類している。 |
セラミックファイバ |
RCF (リフラクトリーセラミックファイバ) |
工業炉ライニングの内張り材 から裏張り材まで幅広く使用されており、バルクファイバ、ブランケット、ボード、成形品、不定形品、クロス、ロープなどの様々な製品群がある。 |
AF (アルミナファイバ) |
RCFより更に高温で安定して使用可能。 |
|
断熱保温材 |
ケイ酸カルシウム製品 ロックウール製品 |
耐火物やセラミックファイバのバックアップ材や、ダクト等の外部断熱材などに使用。 |
低熱伝導 断熱材 |
マイクロポーラス断熱材 など |
微細なヒュームドシリカを母材とし、セラミックファイバや断熱保温材より更に低い熱伝導率を有し、その値は静止空気より低い。耐火物やセラミックファイバのバックアップ材として使用される。 |
工業炉の断熱材と省エネルギー
日本全体で使用されるエネルギー消費量の内、約18%が工業炉で消費されており、産業部門においては約 40%を占めると言われています。3) 地球温暖化に対する関心が高まりにより、CO2を代表とする温室効果ガス削減の取り組みが世界規模で進められている中、膨大なエネルギーを消費する工業炉の省エネルギー化、CO2削減が強く求められています。工業炉の炉体構成において耐火物や断熱材は非常に大きなボリュームを占め、その特性や形状が炉の熱損失に大きな影響を及ぼすことから、省エネルギー化において断熱材はとても大きな影響因子となります。
図1は溶解炉における熱収支の一例ですが 4)、
総入力熱に対して有効熱は4割程度で、残りの6割程度は損失熱として様々な経路で排出されていて、この損失熱を抑制することが炉の省エネルギー化に直結することになります。断熱を強化した場合、炉壁温度が低下することで炉壁損が減少することはもちろん、炉の保温性が高まることで入力熱そのものの減少も期待できます。ただ、断熱材の選定においては省エネルギー化以外にも、構造的な制約、経済性、施工性、メンテナンス性など考慮すべき項目は数多くあり、各項目から総合的に判断して選定する必要があります。
図1 溶解炉における熱収支事例 4)
断熱材と断熱塗料
建築においては、断熱塗装という室内の保温性を向上させる断熱塗料や、太陽の熱を反射する遮熱塗料による外壁に新たな機能を付与する外壁塗装はよく耳にしますが、工業炉においても熱損失を低減するための塗装技術があります。
例えば溶解炉における熱の移動には、図2で示すように物質内を熱が移動する『伝熱伝導』、空気などの流体が熱を運ぶ『対流』、電磁波による『放射(輻射)』の3種類がありますが、炉壁の塗装は、塗料自体が断熱の役割をして伝熱伝導を抑える断熱塗料や、放射を抑制する低放射塗料などがあります。
しかし、前述した断熱材と塗料とで断熱効果などを相対的に比較した場合、塗料はコストは安く、様々な形状にも適用しやすいなど施工面では有利と考えられる一方、厚みが薄いといったことで断熱効果の面では不利と考えられます(表2参照)。
図2 溶解炉における熱移動
表2 断熱材と塗料の効果比較(一般的な相対比較)
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断熱材 |
塗料 |
|
断熱塗料 |
低放射塗料 |
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断熱効果 (省エネ影響) |
大 |
小 |
– |
コスト |
高 |
低 |
低 |
施工性 |
難 |
易 |
易 |
その他 |
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|
周辺作業環境温度の低減効果 |
日本高熱工業社における事例
工業炉の省エネルギー化の検討において、断熱材や塗料は有効な技術ですが、先の項目でもご説明した通り、その選定においては考慮すべき項目が多く、施工・メンテナンスも含めてノウハウを要するものになります。
日本高熱工業社は長年に渡ってアルミ鋳造を中心とした溶解炉・熱処理炉などの製作・メンテナンス実績があり、断熱材や塗料においても様々な経験・ノウハウがあります。また、弊社イノベーションセンターでは実機溶解炉を設置しており、実機での断熱材の比較試験の事例もあります。また、断熱塗料の効果検証などの検討も可能ですので、お気軽にご相談いただければと思います。
以上、今回のコラムでは断熱材についてお伝えしました。
日本高熱工業での事例や、メンテナンスのご相談、より詳細な資料請求等については、
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参考文献
1)新版 工業炉用語辞典(社団法人 日本工業炉協会)
2)工業炉の基礎知識(日本工業炉協会)
3)産業界の省エネルギー/環境負荷低減に大きく貢献する高性能工業炉(日本工業炉協会)
4)アルミニウム溶解炉 電気製鋼 第63巻 第4号, 1992年
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